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砂漠のヤキモノ

2010-02-02

 ロサンゼルスでヤキモノを作っている。ここで言うヤキモノとは、陶芸のことだ。粘土を掘り出し、湿らせて成形し、乾かしてから植物の灰や鉱物を砕いて水と混ぜた釉薬を掛けて焼く。土も釉薬も熱と炎で変化し、濡らしても溶けず、表面には光沢を持つガラス質の膜が形成される。釉薬の有無や、焼成温度の違いはあるが、これが一般的な陶芸のプロセスだろう。

 しかし、周知のように、ロサンゼルスは砂漠に作られた人口都市なのだ。水は遠くコロラド辺りから北カリフォルニアを経由して、延々と用水路を伝って供給されているし、嘘か真か其処ここに見られるユーカリの木なども、もともとはオーストラリアから移植されたのだと言う。地球上で一番新しい陸地に属するという話も聞いたが、それかあらぬか、その辺を掘っても、木の根、草の根を始めとする有機物や様々な鉱物が、地面の底で揉まれたり、延ばされたり、溶けたり、混ざったりと、気の遠くなるような時間を経てムッチリとした手触りを持つ粘土となって出てくるということは、まず期待できない。燃料についても同様で、薪で窯を焚こうとすると、かなり無理な算段をしなければならない。陸続きなので、砂漠都市ロサンゼルスといえども足を伸ばせば、森に辿り着き、そこには樹も土もあるのだが、手近なところで北カリフォルニアの森林地帯はどうか、と考えてもロサンゼルスとサンフランシスコでは、同じ州内にあるとはいえ、東京と青森ほども離れており、とても材料、燃料を地元で調達しました、というわけにはいかないだろう。方向を北から東に向けても事情はさして変わらない。自動車で十数時間は砂漠の旅が続く事になるのだから。

 では、砂漠の陶芸には無理がある、と結論づけるのが順当であろうかというと、そうでもなさそうなのだ。伝統的にも現代的にも砂漠や砂漠都市ロサンゼルスでは土を用いた工芸やアートで注目に値する軌跡があったのである。

 アメリカの先住民、ネイティブ・アメリカンと呼ばれる人びとは、内側から押し出す力を使うロクロ細工ではなく、紐作りにより土の粘りの少なさを克服し、薪ではなく乾燥させた牛糞を燃料とし、焼成温度の低さと釉薬材料の制限を、表面に磨きをかけることで独自の意匠とした。また、1950年代の米国の現代陶芸の発祥地はロサンゼルスであり、野外の展示に耐える大型の彫刻作品をはじめとする、現代美術の文脈でひとつの領域を切り開く活動が続いている。

 日本国内でも陶土は外国からの輸入、燃料は電気、ガスというのが一般的な状況になっている現在、材料や焼成方法の本来性と技術の伝承性という括り方が、陶芸という表現の正当性を証す唯一の基準であるとは考えにくい。縄文、弥生、くだって桃山時代の日本の焼き物に、かぎりない魅力と憧憬を感じながら、アドビと呼ばれる日干しレンガの構造物を見て「焼かないヤキモノ」の可能性に思いを馳せるのもまた、現代陶芸の感性だと思う。

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